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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)703号 判決

主文

理由

上告代理人山本法明、同山本紀明および上告代理人松岡義彦の各上告理由について。

上告人主張の額面金二六万円の約束手形に関する上告人の主張は、原判決の引用する一審判決の摘示するところによれば、「上告人は被上告人らから、立花屋こと土井幸乃が振出し、かつ受取人たる名邦電気工事株式会社の裏書にかかる額面金二六万円の約束手形一通を信用のあるものとして受領し、これを第三者に依頼して現金化し、その現金を被上告人春日井雅雄に送金したところ、右の手形は不渡となつたので、上告人は右第三者から手形金の支払を厳しく責められ、やむなく被上告人らに代つてその支払をした。」というのである。これに対し、原判決はその理由において、右の手形の振出人である土井幸乃は被上告人春日井康夫に頼まれて、この手形は人に見せるだけであり、支払日までには返却を受けるとの約束のもとに振出したものであることを認定したうえ、右事由は単純な人的抗弁であり、振出人である土井としては、その受取人の名邦電気工事株式会社以外の第三者に対しては、悪意で取得した者を除き、その支払を法律上拒みえないところ、上告人が悪意の取得者であることを認めるべき証拠はないから、上告人は右手形につき振出人土井に対する請求権を失うものではないし、土井が無資産で右手形金支払能力を欠如し、右手形が事実上無価値のものであると認めるにたりる証拠もない、と説示する。

しかし、上告人は右の手形につき手形債権を取得したことを主張していないのみならず、甲第一号証の二によれば、かりに上告人が右手形上の権利を取得したとしても、期限後の白地式裏書による取得を認めうるにすぎないから、上告人は振出人から人的抗弁をもつて対抗されることとなる。また、一審証人川崎迪夫および同中村定吉の各証言中には、土井幸乃が無資力で右手形金を支払う能力を有しないことを認めるにたる証言部分が存するところ、原判決はこれらの証拠を排斥することなく、土井幸乃が無資力であつたことを認めるにたる証拠はないと判断したことに帰する。してみると原判決は、右の諸点において証拠に基づかず判決をなし、ひいて理由不備の違法をおかしたものといわなければならないから、この点において破棄を免れない。

なお、原判決およびその引用する一審判決の事実摘示によれば、上告人主張の請求原因には、必ずしも首尾一貫しないところなしとはいい難いものがあるのであるが、その主張を通観すれば、上告人の本訴請求の真意は、被上告人らに対し被上告人らの委任による事務処理のため負担した債務の弁済額の償還を請求するにあるものと解しえないでもないから、右の諸点につき更に釈明、審理を尽くすため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

(裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

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